2013年3月14日木曜日

『ゾンビランド』(2009):アメリカ人のダークな願望を満たすホラーコメディー

【2011-05-22のログを転載】



昨日、パイレーツ・オブ・カリビアンやってましたね。
アンデッドが出てくるのを見て、ゾンビ映画を見た時の感想でも載せてみようかと思いました。ちょっとグロくて、でも笑える作品という意味では似てるかな?

普段、苦手ジャンルでまったく観ないのですが、久しぶりに観たホラー映画が「ゾンビランド」(原題:Zombieland)という映画。と言っても、コメディーホラーと言ったほうが良いです。この映画は、まさに「アメリカ!」と言いたくなる良くも悪くも中身のない娯楽映画です。(ジャンル的には、「ショーン・オブ・ザ・デッド」に近いですし、それへのオマージュ的なシーンもありました。)

映画の舞台となるのは、人食いゾンビがはびこり、社会が崩壊したアメリカ合衆国です。主人公のコロンバス(ジェシー・アイゼンバーグ)は、引きこもり系の今風に言えば草食系男子で、自分なりのサバイバルルールを堅実に守り生き延びてきた臆病まるだしの青年です。そこに彼とは対極に位置していそうな豪快で屈強な男タラハシー(ウディ・ハレルソン)が登場します。この男は、アメリカ的理想の男性像を体現したような人物。SUVを乗り回し、銃など大量の武器を所有し、健康など知ったことかとアメリカの定番ジャンク菓子「トゥインキー」を捜し求めつつ、ゾンビを力任せに倒していきます。ひょんなことからこの対極的性格の二人が、一緒に旅をすることになりストーリーは動き出します。この病的なコロンバスと野獣的なタラハシーの不思議なタッグに、狡猾で女/子供を武器に詐欺を繰り返しながら生き延びてきたコロンバスと同い年ほどのウィチタ(エマ・ストーン)とローティーンのリトルロック(アビゲイル・ブレスリン)の姉妹が途中で加わり、中盤からは不思議な4人の車での旅(Road Trip)となります。

こうしてコロンバスがウィチタに恋心を抱いたり、カメオ出演でビル・マーレイが登場したりするのですが、結局ストーリーはどうでもいいのがこの映画です。この映画は、とにかく何も気にせずゾンビを倒しまくる映画で、それを楽しむ映画です。ホラー映画でありながら恐怖をあおることもほどほどで、ゾンビの倒し方もたまに雑でそこがまたおかしいコメディー映画となっています。なので、何も考えずちょっぴりドキドキしながらスカッとしたい人にはオススメです。ホラー映画というかゾンビ映画が好きなら尚のこと笑える映画だと思います。

<ここからはおまけです。興味ある人だけどうぞ。>
ただ、「中身がない」とは言っても、この映画は非常にアメリカ的映画です。特に白人文化に根付いている考え方や思想を示す映画と言え、現代社会に嫌気が指したアメリカ人(特に白人男性)の願望が詰まっています。

先ほどタラハシーが理想の男性像と述べましたが、彼を例に取れば、環境問題なんて気にせず燃費の悪いSUVを乗り回したいし、学校や公共施設で銃乱射事件が起きようが銃は持ってたいし、ジャンクフードは身体に悪いって言われてもそれを気兼ねなくがっつきたいし、まして政治的に正しい(Politically Correct)とかそんなこと考えたくもない!…という姿が体現されています。そして、そんな願望を叶えてくれる場所が、「ゾンビランド」です。社会は崩壊して明日死ぬかも分からないからSUV乗ったって良い(逆にゾンビを踏み潰せるから良い!)し、ジャンクフードだって食べたって関係ない。ゾンビがいるから銃の所持は絶対だし、好き放題ぶっ放せる。そんな世界じゃ、男女平等などは関係ない。力がある男が強い…なんてシンプル!と、なります。

そんな鬱憤晴らしのこの映画でも一番政治的な欲求が示されているのが、ストーリーの途中で立ち寄るアメリカ先住民の民芸品店のシーンです。このシーン、ゾンビはまったく登場しないんです。でも、主人公らによる民芸品を愉快に破壊しまくるシーンが長々と挿入されているんです。

それはもう愉快に壊しまくるんですが、これはただのスーパーではなくアメリカ先住民の民芸品店であることが重要です。これはまさに白人のアメリカ人が共有する文化の中でくすぶっている感情というか願望そのもので、ゾンビランドだから表に出せるものと言えます。もし実際にこんなことをすれば、犯罪ですし、政治的にも正しくない訳で激しく非難されるのは目に見えています。しかし、白人の中には、白人よる先住民の暴力・虐殺・略奪の歴史を忘れて「インディアンなんて知ったことか!アメリカは俺ら白人の土地だ!あつらなんて過去の遺物だ!死んでしまえばいい!」と思っている人がかなりいます。普段出せないその鬱憤をこのシーンは晴らしてくれているんですね。

ということで、「ゾンビランド」は、アメリカ人にとっての究極と言っても良い鬱憤晴らし映画となっています。気になる方はその辺も注目してみると面白いかと思います。


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