2013年3月12日火曜日

『バベル』(2006):現代の不和を描く映画

【2008-05-06のログを転載】


久しく映画を見ていませんでしたが、久しぶりに一本見ました。
ブラット・ピット、ケイト・ブランシェット、役所広司やこの映画で一躍有名になった菊池凛子などが出演した「BABEL」(邦題:バベル)です。結構話題になったのではないでしょうか…。

この作品のタイトル、「バベル」は、旧約聖書にあるバベルの塔に関する話に由来します。聖書によると、太古の昔、人々は一つの言語を話し統合していました。しかし、天にも届くようなバベルの塔を築いた人間に神は怒り、神は罰として人々の言葉をバラバラにし、意思の疎通が取れないようにし、バベルの塔を崩壊させたというのが、そのストーリーです。

映画「バベル」は、現代社会はまさにそのバベルそのものであるというのがテーマです。
主要登場人物は、夫婦仲が破断しかけ、修復のためモロッコツアー旅行に出たアメリカ人夫婦(1)、そのモロッコで羊の遊牧をして暮らす現地の家族(2)、アメリカ人夫婦が家に残した幼い息子と娘の面倒を見るメキシコ人の乳母(3)、そして、東京に暮らす、母親を自殺で失った日本人の聾唖女子高生とその父親(4)です。
映画は、この4つのグループを軸にそれぞれの視点で描かれます。話は、ツアーバスが何もない田舎道を移動中、アメリカ人妻がライフルで撃たれることで動き出し、4つの別々の視点で映像は捉えられ、映像が交錯しながら進んでいきます。

この映画の面白味(特徴)は、4つの視点が絡み合うことで、現代のさまざまな問題を一度に提起している点です。映画が映し出すのは、例えば、パックツアーによって現地の言葉も分からずにモロッコに来てしまったことで窮地に立たされるアメリカ人夫婦、お金を求めアメリカに不法滞在・就労するメキシコ人、そのメキシコ人に乳母を任せたことで親の知らないスペイン語を理解するアメリカ白人の子供たち、羊を守るため手に入れたライフルを安易に幼い息子に任せてしまったことで事件を起こすモロッコの遊牧民、酒やドラッグに溺れ、手軽なセックスを求める都会の高校生。原因は、グローバル化、貧困、教育のなさなど多様ですが、それでも現代が抱えている事柄であることには変わりないでしょう。
これらを一挙に提示するこの映画の手法は独特で、それに付いていければ見る側を考えさせる作品だと思います。映像が頻繁に変わるので、集中して見ていないと混乱してしまうかも知れない作品ですが、「社会派意欲作」という枠の中では、評価されて良いのではないでしょうか。

ただ、4つの軸を考えてみると、4つ目の日本の場面がひどく浮いているように感じられます。それは、そもそも直接的な接点を他の軸と持っていないからでもありますが、奇抜な設定の女子高生が主人公であるためでもあると感じます。これは、自分が五体満足であるから聾唖者の感覚が理解できないというのではなく、映画の中で、あまりにも異端な人物設定であるからだと思います。父親と不仲な女子高生、というのは、ありそうな設定ですね。まず、そこに加わるのが、今なお欧米人には、遠い国「JAPAN」の女子高生であること。ここまでは、いいと思います。が、それに続くのが都会の一等地の高級マンションに住み、しかも母親が目の前で自殺し、そして異常なほどの性への関心を持ち、そして、聾唖であるという、彼女だけ異様なほど細かい設定がされているのです。
ここから思うのは、彼女が、「孤独」や「隔たり」など現代の悲哀の『象徴』なのだということです。『象徴』は、抽象的でなければならず、そのために彼女は、親近感を覚える要素を出来る限り無くさなければならなかったのでしょう。その手始めが、東洋の女子高生であり、そして、究極的な要素が聾唖だったのでしょう。

この「東洋」や「身体的障害」のステレオタイプを利用した手段を評価しませんが、そういう視点で描かれていると思いながら観ると、映画全体のメッセージがいくらか鮮明に見えてくるのではないかと思います。難解であったり、問題があったりしても、日本国内の文化的状況が内向きになっている現在、こうしたグローバルな映画を観ることは、感性を高めたり、視野を広げたりする助けとなり、(観る意欲があり集中力が保てれば…)良い時間となるのではないでしょうか?

画像:ピーテル・ブリューゲル作「バベルの塔」Wikipedia:バベルの塔より

追記:
「グローバル」と安易に使用してしまっていますが、それを語るにしても視座があります。この映画は、やはりアメリカ人のための映画なのだという点を強調しておくべきかと思いました。提起される問題も、アメリカ人に向けられたものであるので、日本人には理解しづらかったり、物語の意図が読みづらかったりするかもしれません。
要は、大々的な宣伝がされましたが、非常にマニアックな映画ということです。観る前に注意が必要ですね。


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