2013年4月13日土曜日

【先取り:9月7日公開予定】『アップサイドダウン 重力の恋人』(2012)




日本では9月7日公開予定の『アップサイドダウン 重力の恋人』は、『スパイダーマン』シリーズで有名なキルスティン・ダンストと『クラウド・アトラス』で知名度の上がったジム・スタージェスが主演のSFラブファンタジー映画です。製作国は、カナダとフランスです。

【あらすじ】
舞台は、架空の双子惑星。そこは、「上の世界」呼ばれる富裕層が住む惑星と「下の世界」と呼ばれる貧困層が住む惑星が寄り添い、鏡を向かい合わせたように真逆の引力に縛られた世界。二つの世界の交流は公式には2つの世界を唯一繋いでいる「トランスワールド社」を通じてのみ可能な中、「上の世界」のエデンと「下の世界」のアダムは、幼い頃に惑星同士が近づく山頂で知り合い、愛をはぐくもうとするのですが…。

【予告編】

【オススメ度:★★★☆☆】
カップルが観る場合:★★★★☆
この映画は、まず世界観を理解しないといけません。
この双子惑星には、3つのルールがあります。
  1. 全ての物質は、それが生まれた惑星の「引力」に縛られる。
  2. ある物質の重さは、反対の惑星の同等の重さの物質で相殺できる。(「逆性物質」)
  3. ある物質に触れた「逆性物質」は、ある一定の時間経つと摩耗し、燃えてしまう。
これは人も同じで、どっちの惑星に居ようが、自分の生まれた惑星の「引力」に縛られてしまいます。そんな互いに逆の引力に縛られ、しかも社会的にも禁じられた二人の愛は、カップルが観ればたまらなく切なく感じられることでしょう。それでいてそこまでシリアスでもないので、デートには最適です。

しかし、映画を映画として観てしまうと消化不良といった点が顕著で、オススメ度も下がってしまいます。格差社会を視覚的に表した世界観は良いし、映像美も優れているのに生かし切れてない…という印象。(ほんとにもったいない!)

【注目ポイント:美しい世界観】
現実にはあり得ない上下逆さまの世界は、美しくそしてリアリティを保ちつつ描かれいて、SF好きには必見です。他には無い、不思議な「引力」のルールがまたその映像美に拍車をかけていると思います。ラブストーリーには興味が無く「映画館では…」という方もDVDやブルーレイが出る頃には、ぜひ観てみることをオススメします。


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2013年4月7日日曜日

『シュガー・ラッシュ』(2012):ディズニーの本気




シュガー・ラッシュ』(原題:Wreck-It Ralph)は、ゲームセンターのゲームの世界を舞台にしたディズニーアニメです。製作総指揮にディズニーそしてピクサー両方スタジオのチーフ・クリエイティブ・オフィサーであるジョン・ラセター、監督に大人気テレビアニメ『ザ・シンプソンズ』の製作に関わったこともあるリッチ・ムーアを迎えた意欲作です。

【あらすじ】
クラシックと化したゲーム機「フィックス・イット・フェリックス」で長年悪役を演じ続けるのに嫌気がさした“レック・イット”・ラルフは、ヒーローになりたくて掟を破って他のゲーム機の世界へ。ドタバタの末たどり着いたのは、お菓子の国が舞台のレースゲーム「シュガー・ラッシュ」。そこで同じようにのけ者扱いの女の子ヴァネロペと出会い、一緒にレースに参加することを目指すのですが…。

【オススメ度:★★★★☆】
あちこちに話の舞台が飛ぶ辺りは、注意欠陥・多動性障害 (ADHD) の傾向が強い子供が増えてそんな子供でも飽きないようにという配慮なのか、制作者側の現代っ子のイメージがそうなのか…といった印象も受けますが、全体としてはハラハラドキドキと展開の読めない見て損はない映画になっています。往年のゲームのキャラクターが随所に登場するのでゲーム世代の大人も楽しいです。

【注目ポイント:ディズニー映画の新境地】
この映画は、ディズニー傘下のピクサー・スタジオではなく、ディズニー・スタジオの映画です。(この違いを知っていると映画通として言えるかも?)

実は、ここ数年のディズニー配給映画で高収益を出しているのはピクサー・スタジオからの物。ディズニー・スタジオと言えばプリンセス物をずっと押していたのですが従順で無垢(無知)なプリンセス(女性)像は、現代には合わず、つぎ込んだお金に見合うような収益が出ていませんでした。

そんな中でディズニー・スタジオの看板を背負ってのこの映画は、ディズニーというブランドにとっては新境地の開拓と言えます。社会風刺と皮肉たっぷりのジョークが売りの「ザ・シンプソンズ」に関わった現代的なムーアを監督として使い、しかも、総指揮のラセターはピクサー作品で失敗知らず。その二人を使って、対象の親も子供もゲーム世代の家族相手にそのままゲームをテーマに映画を作ってしまう。もうなりふり構わずなディズニーの姿が見えませんか?

そんなディズニーの本気度が現れている所、ぜひ注目です!




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2013年3月29日金曜日

9月13日公開『ウルヴァリン: SAMURAI』の予告編公開スタート

ウルヴァリン: SAMURAI』(原題:The Wolverine)の予告編がアメリカでは公開されましたね。日本では、9月13日公開予定。(アメリカは、7月26日予定。)



今度の映画では、舞台は日本の様子ですが動画を見る限り、なかなかのひどい日本像が描かれていそうです。サムライって…それにヤクザ、ニンジャに日本刀。純日本家屋的な木造の家にハイテク機器。相変わらず日本のイメージはこんなもんなのでしょう。公開が恐ろしいです…。

以下のリンクで見られます。
http://trailers.apple.com/trailers/fox/thewolverine/



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2013年3月26日火曜日

『クラウド・アトラス』(2012):人種と性別の超越



クラウド・アトラス (Cloud Atlas)』は、『マトリックス』のウォシャウスキー姉弟と『ラン・ローラ・ラン』で有名なトム・ティクヴァ監督によるSF大作です。主要キャストには、トム・ハンクス、ハル・ベリーやヒューゴ・ウィーヴィング、ヒュー・グラントなど豪華な俳優陣が揃っています。

【あらすじ】
1849年の奴隷貿易から文明崩壊後の2346年まで、主要人物が性別や人種の壁を越えて輪廻転生を繰り返し、時代や場所も違う6つの物語を同時進行的に絡め合わせてストーリーは進行します。この映画での大きな問いは「人=魂は、変われるのか?」です。

【オススメ度:★★★★☆】
6つの物語が絡み合う複雑な構成なので、それについて行けないと余り面白くないかも知れません。そして、前半はコツコツとそれぞれの時代に登場する人物像を描くので、遅く感じるかも知れません。しかし、それが後半に向かうに従い物語のペースは加速していき6つのバラバラに思える物語が1つに集約していきます。見終わる頃にはある種の爽快感が待っている…そんな映画だと思います。アメリカだけでなくドイツやシンガポールなど多国籍資本の映画のせいか、ハリウッド映画的ではないロマン溢れるSF映画である所もオススメ度が高い理由です。

【注目ポイント:人種と性別の超越】
この映画の面白いところは、主要俳優陣が6つの物語の中で全く違う役を演じるのですが、その際に、特殊メイクをして人種や性別を超えて違う役を演じている点です。多少無理がある場合もいくつかあります。例えば、韓国の女優ペ・ドゥナが、ある時代では白人女性だったり、白人の俳優が、未来ではアジア系と思われる設定(私には人型の宇宙人にしか見えませんでした…)だったりする時は、何かおかしさを感じます。でも、ここには生物学的には間違いであるにも関わらず固定観念として信じてしまいがちな人種や男女の壁というものを相対化させ、人間とは何かを問いたい監督側のメッセージが読み取れます。それに、難しく考えなくても誰どの役をやっているのかに注意して見るとまた楽しいと思います。


【おまけ情報 1】
手塚治虫の漫画を読んだ世代なら、映画を見てピンと来るかと思いますが、映画の構成の仕方が手塚治虫の大作『火の鳥』にとても似ています。なので、映画を見る前にちょっとでも読んでいると、イメージしやすく映画の複雑な構成にもついて行きやすいと思います。もちろん見終わった後にこの漫画を読んでも楽しいと思います。








【おまけ情報 2】
映画マニアの方には、ぜひ古い映画でしかも低予算なB級映画ですが『ソイレント・グリーン (Soylent Green)』(1973)を見ることをオススメします。近未来の物語のテーマとこの映画がほぼ同じで、両方見たらかなりの通と言えるかと思います。










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2013年3月22日金曜日

『ジャンゴー繋がれざる者』(2012):「A級予算で作ったB級映画」



クエンティン・タランティーノ監督作品『ジャンゴー繋がれざる者』(Django Unchained)は、主演にジェイミー・フォックスを迎えた話題の西部劇映画です。

【あらすじ】
映画は、奴隷制時代の南部を舞台にジェイミー・フォックス演じる奴隷であったジャンゴをドイツ系賞金稼ぎのドクター・キング・シュルツ(クリストフ・ヴァルツ)が解放するところから始まります。そこから、二人はパートナーとなり賞金を稼ぎながら、離ればなれとなったジャンゴの妻をサディストで奴隷主のカルヴィン・キャンディ(レオナルド・ディカプリオ)から救出するというのが主なストーリーです。

【オススメ度:★★☆☆☆】
タランティーノ映画らしく流血シーンはもちろんサディスティックな暴力シーンがバンバン描かれていますが、低評価の理由はそこにはありません。基本的にはシンプルな設定に加えて派手なウェスタン・アクションがてんこ盛りのエンターテインメント作なので何も考えずに見れば、楽しい映画だと思います。

それでも評価が低い理由には、いくつかありますが、総じて言えば、この映画が「A級予算で作ったB級映画」だからかも知れません。B級映画は低予算ならではの良さがありますが、それを莫大な予算で作ってしまっては元も子もない感が丸出しで受け付けられなかった…という感じです。名優の素晴らしい演技がまぁ〜もったいない!

【注目ポイント:ウェスタン版キル・ビル】
要は、マカロニ・ウェスタンマニアのタランティーノ監督が作ったオマージュ作品な訳ですが、それは『キル・ビル』が日本の任侠映画と香港のカンフー映画へのオマージュ作品だったのと一緒で、そんな映画を見まくっていた若かりし頃のオタクな自分への愛とその時の妄想に浸っているだけ…と言えます。なので、現実にある日本や香港を理解する気持ちもなければ、西部開拓時代の深い歴史認識があるということでもない。そんな自慰行為に等しい映画なんだと思うとしっくりきます。

【深読みポイント:人種】
アメリカ、特に黒人コミュニティーからは、批判が相次ぎ、かなりの物議を醸しました。理由には、史実に忠実ではありえない荒唐無稽の元奴隷がカウボーイになるという設定に加えて、テレビでは放送禁止用語で黒人差別用語である「ニガー(nigger)」という単語を乱用している点があげられます。

無理を承知で例えるなら、第二次世界大戦を舞台に、出っ歯に丸メガネの日本兵の部隊が日本刀を振り回し米兵を殺しまくる映画をアメリカ人が作り、その劇中に米兵が「ジャップ (Jap)」と言いまくり、「軍艦やゼロ戦を造る技術もない劣等民族が!どうせナチスに作ってもらったんだろが!」などと捕虜の日本兵を侮辱し虐げるシーンが何度もある…といった感じでしょうか。そして、とうの監督は、日本人がスカッとする映画を作ったつもりだし、日本からの批判も議論の場を作ってあげられたってことでとても嬉しいと満足げ。

そんな映画に批判がないわけがないですよね…。でも、日本では、その辺が伝わってないように感じます。



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2013年3月16日土曜日

「SP 野望編」(2010)「トロン:レガシー」(2010)「グリーン・ホーネット」(2011)

【2011-06-22のログを転載】


最近観た映画DVDを3本。そこまでオススメではないので、まとめて紹介。

「SP 野望編」(2010)
【オススメ度:★★★☆☆】

これは、正直DVDで観てちょうど良かったです。テレビドラマシリーズを観てないとストーリーや設定がよく分からないと思います。ただ、映画自体のストーリーも希薄でしたし、格闘シーンもしっくりこない所が多々あり。後半のシーンで思ったのは、「なぜ携帯してる特殊警棒を使わない!?」でした。僕のようにTVシリーズが好きだったなら観て損はしない、という意味で★3つです。(そうじゃない人は¥100レンタルなら…いや、TV放送でも良いかも…。)

「トロン:レガシー」(2010)
【オススメ度:★★★☆☆】

コンピューターの中の仮想世界に入り込んでからのCG映像を楽しむ映画と言えます。CGの質やデザインは秀逸で見てて楽しかったです。ただ、この映画もストーリーはイマイチで緩慢な印象でした。なので、SF映画が好きなら★3つという評価です。ちなみにダフト・パンクが音楽を担当しているので、彼らの音楽が好きな方も観る価値あるかと思います。

「グリーン・ホーネット」(2011)
【オススメ度:★★★☆☆】

昔のアメリカで人気を博したラジオドラマのリメイクです。新聞社の御曹司がお抱えの運転手と共に夜な夜な変装をして悪者を倒すというストーリーですが、コメディタッチのドタバタアクション映画です。冴えない白人御曹司を格闘技とメカに強いアジア系お抱え運転手がサポートするんですが、この設定には白人の屈折したアジア系に対する感情が投影されている様に感じました。何にしても、せっかくキャメロン・ディアスが出てるのに生かされてなかったり、キャラクター設定が甘かったり、A級映画になれそうなのになれないB級作品です。そういうB級の感じが好きな方どうぞ。ちなみに、現在公開中の映画「127時間」に主演しているジェームズ・フランコが冒頭にカメオ出演してます。いい感じです。



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2013年3月15日金曜日

『ヒックとドラゴン』(2010):マンネリを打破した王道ファンタジー

【2011-06-16のログを転載】




今日は「ヒックとドラゴン」(原題:How to train your dragon)の感想です。

「ドリームワークス×アニメ」となると思い浮かぶのは、パロディアニメ「シュレック」シリーズでしょうか。どうもディズニーとは違うんだと言わんばかりにパロディ路線を進んでいる印象でした。しかし、今回の「ヒックとドラゴン」は、思いも寄らぬ王道ファンタジーでした。

【あらすじ】
勇猛果敢で有名なバイキングが暮らすある島では、太古の昔からドラゴンと戦い続けてきました。その族長の息子として生まれたヒックは、父親のDNAを受け継いでいないかのように貧弱な体に弱気な心の持ち主。そんなヒックはひょんなことでドラゴンを一匹捕まえることに成功します。しかし、みんなの様にドラゴンを殺そうとはせず、ヒックは仲良くなることを決意します。そして、彼は長きにわたるバイキング対ドラゴンの戦いを終わらせる決意をするのですが、そこは勇者でもない弱虫ヒックです。一筋縄ではいきません。

【オススメ度:★★★★☆】
大人の僕が観ると今一歩という感じですが、子供が観たらこれは五つ星かもしれません。3Dで観たら尚のこと楽しいと思います。よく観ていると、ジブリやディズニー作品へのオマージュとも取れるシーンがちらほらとあります。特に男の子や少年の心を忘れてない男性が楽しい映画かと思います。

【注目ポイント:マンネリの打破】
この映画には、「人」対「ドラゴン」の構図があります。ファンタジー映画の典型としては、これは「私たち」対「敵」、「善」対「悪」の構図です。しかし、この映画はそれを崩してきました。「人」は「ドラゴン」と分かり合える=「私たち」は「敵」と分かり合えるというメッセージを打ち出してきました。こういったメッセージが含まれた映画がアメリカで出てきたこと、これは賞賛に値すると思います。ここにはディズニーがつまずいたマンネリの打破があり、それがこの映画を面白くしていると思います。特にラストは必見です!

【英語レベル:★★★★☆】
子供映画なのに、結構英語は難しいと思います。それは登場人物がバイキングだからかと思います。北欧の英語のアクセントをイメージしているようで、クセの強い英語に慣れないとちょっと分からないかも知れません。



おまけ…
【ネタバレ裏批評】
実はドラゴンと和解するストーリーですが、和解できないドラゴンが1匹登場します。それが、ドラゴンの親玉的な巨大で凶暴なドラゴン。ドラゴンと仲良くなれると言っていたヒックもコイツだけは別格らしく、仲良くなろうとはせず殺してしまいます(もちろん死んでるところは映りませんが…)。しかも、ヒックが捕まえたドラゴンやバイキングが捕まえていたドラゴンを使役して、彼らの力を利用して倒します。このシーンには和解の余地は1ミリもありません。ここから分かるのは、仲良くできるドラゴン(敵)は、家畜化/ペット化できるモノのみということです。ここにハリウッド映画の限界があるように思います。



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『ソーシャル・ネットワーク』(2010):成功とその代償

【2011-06-10のログを転載】


久しぶりにDVDを借りていくつか映画を観ました。
そのうちの一つが「ソーシャル・ネットワーク」(原題:The Social Network)です。

監督は、「セブン」や「ファイト・クラブ」で有名になったデヴィット・フィンチャーです。前作「ベンジャミン・バトン 数奇な人生」では、ノスタルジアと老いることがテーマにあったように感じたのですが、今回は時代の最先端と若さがテーマだという気がします。

【あらすじ】
主人公は、実在する世界最大の利用者数を誇るSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サイト/サービス)Facebookの創設者マーク・ザッカーバーグ(ジェシー・アイゼンバーグ)。ハーバード大学の秀才にも関わらずコンピューターオタクで恋愛下手な彼は、友人と共に大学の友達と繋がりあえるサイトを立ち上げます。瞬く間にそのサイトは学生の間に広がり、彼は成功を手に入れていきます。しかし、それには代償が……というのが大まかなストーリーです。

【オススメ度:★★★★☆】
この作品は、デヴィット・フィンチャー作品の中で「ファイト・クラブ」と対を成す、現代への批評が詰まった作品となっています。派手さはない作品ですが、ハイテンポな会話を中心にグイグイとストーリーを進ませていき、非常に観る者をその世界に引き込むと思います。

【注目ポイント:成功の代償】
映画は、彼がいかにしてFacebookを作りだしたかを追います。しかし、そこはデヴィット・フィンチャー、ストーリーはありきたりの成功物語ではありません。監督が注目するのは、成功の代償です。たぶん、この代償がなんなのかをここで語ってしまうと鑑賞の際、そして鑑賞後の余韻が変わってしまうかと思います。「いつ・どこで・なにが」失われてしまったのか、その辺をぜひ感じながら観て欲しいと思います。

一言言えるのは、アイロニー(皮肉)の詰まった作品だということでしょうか…。

ちなみに…
【英語レベル:★★★★★】
英語のレベルはマックスです。何せ速い!ネイティブじゃないと字幕無しで理解するのは辛いと思います。


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2013年3月14日木曜日

『インセプション』(2010):注目ポイントは渡辺謙!

【2011-06-07のログを転載】


帰国してしばらく映画を見ていなかったのですが、帰国して最初の映画は「インセプション」(原題:Inception)でした。

最新のバットマンシリーズ監督であるクリストファー・ノーラン監督のSF作品です。主演はレオナルド・デカプリオですが、日本では渡辺謙が出演していることでも注目されたのではないでしょうか?

【あらすじ】
デカプリオ演じるドム・コブは、特殊な装置を使いターゲットの人物と一緒に共有する夢の中へ落ち、その夢の中から欲しいアイディアや情報をターゲットから盗み取る一流の産業スパイ。そのコブの前に現れたのが、渡辺謙演じる国際的大企業トップのサイトウ。サイトウは、コブに仕事を依頼するが、その内容は、アイディアを盗むことではなく、逆にある人物にアイディアを「植え付ける」こと。非常に難しい依頼内容に挑むためコブは知る限り最高のチームを結成し、その難題に挑むというのが大まかなストーリーです。

【オススメ度:★★★★☆】
この映画は、よく作り込まれたSF作品ですが、その分、「夢」の概念などその世界観をまず理解するのに苦労するかも知れません。しかし、そこを通り越せば、その不思議な映像体験にどっぷりと浸かり、楽しい鑑賞体験になると思います。特にSF作品が好きならば…。

【注目ポイント:渡辺謙!】
詳細なストーリーやコンセプトに関しては、さまざまな人が感想を書いているのではないでしょうか?僕が個人的に注目したのは、渡辺謙です。或いは、彼の役サイトウです。

渡辺謙は、「バットマン・ビギンズ」に続いてノーラン作品には2度目の出演となっています。「バットマン・ビギンズ」では、さすがアメコミという感じでヒマラヤ奥地の密教とニンジャを合わせたような荒唐無稽な暗殺ニンジャ集団のトップという悪役でしたが、今回の役は、大企業のトップです。

「サイトウ」というこの役を渡辺謙が演じたことは、ハリウッド映画史の中で考えるととても意義のあることなんです。アジア系俳優がハリウッド映画に出演する場合、あてがわれる役は決まってサムライやニンジャのようなステレオタイプ的キャラクターがほとんどです。多くのアジア系俳優がそうしたタイプキャスト(似た役を毎回あてがわれること)に悩まされ、ハリウッドを去っていきます。そうした歴史を振り返った上で、今回の渡辺謙の役を見ると、その異例さに気づきます。そう、サイトウが格好良いと…。特殊効果だけでなく、ぜひ彼の活躍にも注目して欲しいと思います。

【深読み】
ここから先はもっとマニアックに、どう「サイトウ(渡辺謙)」が注目に値するのかについてです。興味ある方だけどうぞ。

ポイントは3つ。

1.「名前」:まず初歩的なことですが、名前です。欧米の白人が聞いて「オリエンタル」な響きの適当な名前であることはよくあることです。名前が「サイトウ」という実在する姓であることは、小さな事ですが結構重要な点です。

2.「チームの一員」:第2のポイントですが、サイトウは、アジア系の配役でありがちな悪役(最近では「エアベンダー」で問題となりましたが…)ではなく、コブの味方側となってチームの一員となることも大切です。

3.「ピエロじゃない」:そして3点目は2点目と関係するのですが、味方となった彼がスタイリッシュにスーツを着こなし、訛りがありながらも流ちょうに英語を話し、また、その頭脳明晰さを披露する役であることです。

<解説>
よくあるパターンとしては、味方となってもアジア系俳優は、その一味のお笑い担当であることが多々あります。英語が話せなかったり、話せても訛りを笑いにされたり、大げさに例えると日本人役であれば現代なのに何故か着物を着せられたり日本刀を持たされたりして変人として笑い物にされてしまいます。それは、アジア系が欧米の主流文化の埒外にあり、世間知らずだという認識が白人中心文化の中で共有されているためです。ですから、サイトウが訛りのある英語を話しているにも関わらずチームの一員となっていること、そして、ピエロ化されていないことは、気づきにくいことですが、評価されるべきことかと思います。

【まとめ】
サイトウの活躍には残念な点(映画後半部分の登場シーンの激減など)等もありますが、大型ハリウッド映画において渡辺謙がこの「サイトウ」という役を得たことは、小さな事かも知れませんがアジア系俳優が新しい形で活躍できる役を一つ増やしたという点で注目に値すると思います。

「インセプション」を見た感想を話す機会がある方は、こんな点について話すとちょっと通っぽく気取れるか、または、蘊蓄が過ぎてウザがられるかと思います。その点を加味して参考にしてもらえればと思います。


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『アバター』(2009):意外に古くさい映画

【2011-06-02のログを転載】




かなり遅ればせに観たのが、公開当初から随分と話題となった『アバター』(原題:Avatar)です。

日本では『アバター』と言えば、言わずと知れたジェームズ・キャメロン監督作品であり、3D映画の代名詞という感じで受け入れられているように感じますがどうなんでしょうか?

この映画はSF大作ですが、ただCGがすごい映画として観てはもったいないかもしれません。ちょっと通な(?)観方としては、ディズニーの「ポカホンタス」を見ておいてストーリーを覚えておくと面白いと思います。

『アバター』と『ポカホンタス』は、印象としてはSF大作映画と子供用アニメ映画とまったく違う映画に思えます。ですが、個人的な見解ではありますが『アバター』の基本ストーリーは『ポカホンタス』を基にしていると言っても過言ではありません。

練りこまれたCGに3Dに惑わされずにストーリーを追うと、あるのは<侵入者>対<先住民>の構図と、それに絡められて生まれるその対立を越えた異人種間ラブストーリーです。『アバター』では、「地球人」対「異星人」ですが、『ポカホンタス』では「ヨーロッパ人」対「アメリカ先住民」となっていますが、恋をするのは結局のところ、両方ともに「白人男性」と「先住民の女性」です。そう思うと『アバター』は、意外に「新しくない」映画と言えなくもないですね。

ということで、視点を変えて見ると、『アバター』は最新の技術を駆使した古典的ストーリーの焼き直し映画と言えます。映画好き同士だったら、こういう話を交えると映画の感想を言い合ったりする時に楽しいかもしれませんね。

ちなみに、この映画はアメリカ研究者にとっては、アメリカ文化を知る上での格好のテキストだったり研究材料だったりします。それは、上記の通り、『アバター』は、未来を描いていはいても、過去からアメリカ人が慣れ親しんでる物語のテーマや「白人/男」と「先住民/女性」の関係性など、主流文化の価値観に多くの部分で依存しているためです。

この辺のマニアックな批評は、説明し出すと長くなるので今回の感想はこの辺で。。。


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『ゾンビランド』(2009):アメリカ人のダークな願望を満たすホラーコメディー

【2011-05-22のログを転載】



昨日、パイレーツ・オブ・カリビアンやってましたね。
アンデッドが出てくるのを見て、ゾンビ映画を見た時の感想でも載せてみようかと思いました。ちょっとグロくて、でも笑える作品という意味では似てるかな?

普段、苦手ジャンルでまったく観ないのですが、久しぶりに観たホラー映画が「ゾンビランド」(原題:Zombieland)という映画。と言っても、コメディーホラーと言ったほうが良いです。この映画は、まさに「アメリカ!」と言いたくなる良くも悪くも中身のない娯楽映画です。(ジャンル的には、「ショーン・オブ・ザ・デッド」に近いですし、それへのオマージュ的なシーンもありました。)

映画の舞台となるのは、人食いゾンビがはびこり、社会が崩壊したアメリカ合衆国です。主人公のコロンバス(ジェシー・アイゼンバーグ)は、引きこもり系の今風に言えば草食系男子で、自分なりのサバイバルルールを堅実に守り生き延びてきた臆病まるだしの青年です。そこに彼とは対極に位置していそうな豪快で屈強な男タラハシー(ウディ・ハレルソン)が登場します。この男は、アメリカ的理想の男性像を体現したような人物。SUVを乗り回し、銃など大量の武器を所有し、健康など知ったことかとアメリカの定番ジャンク菓子「トゥインキー」を捜し求めつつ、ゾンビを力任せに倒していきます。ひょんなことからこの対極的性格の二人が、一緒に旅をすることになりストーリーは動き出します。この病的なコロンバスと野獣的なタラハシーの不思議なタッグに、狡猾で女/子供を武器に詐欺を繰り返しながら生き延びてきたコロンバスと同い年ほどのウィチタ(エマ・ストーン)とローティーンのリトルロック(アビゲイル・ブレスリン)の姉妹が途中で加わり、中盤からは不思議な4人の車での旅(Road Trip)となります。

こうしてコロンバスがウィチタに恋心を抱いたり、カメオ出演でビル・マーレイが登場したりするのですが、結局ストーリーはどうでもいいのがこの映画です。この映画は、とにかく何も気にせずゾンビを倒しまくる映画で、それを楽しむ映画です。ホラー映画でありながら恐怖をあおることもほどほどで、ゾンビの倒し方もたまに雑でそこがまたおかしいコメディー映画となっています。なので、何も考えずちょっぴりドキドキしながらスカッとしたい人にはオススメです。ホラー映画というかゾンビ映画が好きなら尚のこと笑える映画だと思います。

<ここからはおまけです。興味ある人だけどうぞ。>
ただ、「中身がない」とは言っても、この映画は非常にアメリカ的映画です。特に白人文化に根付いている考え方や思想を示す映画と言え、現代社会に嫌気が指したアメリカ人(特に白人男性)の願望が詰まっています。

先ほどタラハシーが理想の男性像と述べましたが、彼を例に取れば、環境問題なんて気にせず燃費の悪いSUVを乗り回したいし、学校や公共施設で銃乱射事件が起きようが銃は持ってたいし、ジャンクフードは身体に悪いって言われてもそれを気兼ねなくがっつきたいし、まして政治的に正しい(Politically Correct)とかそんなこと考えたくもない!…という姿が体現されています。そして、そんな願望を叶えてくれる場所が、「ゾンビランド」です。社会は崩壊して明日死ぬかも分からないからSUV乗ったって良い(逆にゾンビを踏み潰せるから良い!)し、ジャンクフードだって食べたって関係ない。ゾンビがいるから銃の所持は絶対だし、好き放題ぶっ放せる。そんな世界じゃ、男女平等などは関係ない。力がある男が強い…なんてシンプル!と、なります。

そんな鬱憤晴らしのこの映画でも一番政治的な欲求が示されているのが、ストーリーの途中で立ち寄るアメリカ先住民の民芸品店のシーンです。このシーン、ゾンビはまったく登場しないんです。でも、主人公らによる民芸品を愉快に破壊しまくるシーンが長々と挿入されているんです。

それはもう愉快に壊しまくるんですが、これはただのスーパーではなくアメリカ先住民の民芸品店であることが重要です。これはまさに白人のアメリカ人が共有する文化の中でくすぶっている感情というか願望そのもので、ゾンビランドだから表に出せるものと言えます。もし実際にこんなことをすれば、犯罪ですし、政治的にも正しくない訳で激しく非難されるのは目に見えています。しかし、白人の中には、白人よる先住民の暴力・虐殺・略奪の歴史を忘れて「インディアンなんて知ったことか!アメリカは俺ら白人の土地だ!あつらなんて過去の遺物だ!死んでしまえばいい!」と思っている人がかなりいます。普段出せないその鬱憤をこのシーンは晴らしてくれているんですね。

ということで、「ゾンビランド」は、アメリカ人にとっての究極と言っても良い鬱憤晴らし映画となっています。気になる方はその辺も注目してみると面白いかと思います。


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2013年3月13日水曜日

『フード・インク』(2008):食の裏側に興味があるのなら…

【2011-02-12のログを転載】


フードインク


昨今、工場見学番組流行ってませんか?もしそういう番組が好きで食の裏側に興味があるのなら…観ることをお勧めするのが『フード・インク』(原題:Food, Inc.)です。

日本では、1月22日より公開が始まったドキュメンタリー映画ですが、アメリカ合衆国では2008年公開で日本でも話題となった『コーヴ』(原題:The Cove)と共にアカデミー賞長編ドキュメンタリー部門にノミネートされた作品です。結局受賞したのは『コーヴ』ですが、映画の出来映えで言えば圧倒的に『フード・インク』の方が上だと僕は思います。

『コーヴ』は、イルカ漁を扱った映画ですが、その中でイルカ肉を食べることの危険性訴え、偏見に満ちていますが、ある種、日本の「食」に警鐘を鳴らしています。かわって『フード・インク』は、アメリカ合衆国の「食」の危険をストレートに扱った作品です。

映画のタイトルにある「インク(Inc.)」は、「Incorporated」の略で「法人」、平たく言えば「会社・企業」という様な意味です。なので、オリジナルの英語タイトルからは、今、米国の「食」と「企業」が深く繋がっていることが伝わってきます。そして、その内容はと言えば、食肉産業と穀物産業に注目し、巨大企業によっていかにコントロールされているか、農家の人々がどれだけ厳しい情況に置かれ、力を奪われてしまっているかという現状を扱っています。

これを観ると日本に農業協同組合があることのありがたみを感じると思います。米国では、農業従事者は農業企業大手と直接契約を結び、その契約に従って働いている場合がほとんどとなっています。資本主義に従う企業にとって、基本として目の前の利益が優先されます。この映画を観ると、それが突き詰められていくとどうなってしまうのか、ということを米国の現状を通して理解することが出来ます。映像の中には、見るに堪えないシーンや信じがたいシーンがいくつもあります。僕の友人は、これを観て以来、マクドナルドなどのハンバーガー・チェーンで食事をしなくなり、スーパーではミンチ肉を買わなくなりました。なので、観るには少々勇気がいるかと思います。

ですが、この映画が良いところは、そんなおぞましい農業の現状と同時に、オーガニック食品や自然な環境で家畜を育てている農家などに取材をして、今始まっている新しい希望や可能性も伝えているところです。そして、最後には農業に関わっていない一般の消費者に何が出来るのかということも伝えています。

食の多くを輸入に頼る日本にとって、映画が伝えるものは対岸の火事ではないわけです。このドキュメンタリー映画でテレビでは知ることの出来ない、もう一歩深い食の裏事情をぜひ観てみてはいかがでしょうか。

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『マイケル・ジャクソン THIS IS IT』(2009):記憶と忘却のマイケル像

【2010-11-08のログを転載】



最近になってやっと「マイケル・ジャクソン THIS IS IT」を観ました。

言わずと知れた2009年6月に急死したマイケル・ジャクソンの死ぬ数日前までの映像をも含むライブ・リハーサル映像をまとめたドキュメンタリー映画です。公開スタートは10月。熱狂的なファンからそうでない人たちまでを魅了し、予想以上の人気を博し、公開期間の延長やアンコール上映まで行われた映画です。
映画館で見るべき映画などということも聞かれましたが、僕は結局観ずに終わって、この間やっと観ることにしました。

この映画は、思いの外急ピッチにまとめ上げられ公開となりました。マイケル・ジャクソン急死のニュースが冷めやらぬ内での公開に、ジャクソン親族側の多くが批判の声を上げました。僕個人としても余りにも早いのでは無いかと感じたのを覚えています。

おわかりの通り、この映画は単に舞台の裏側を納めたという訳ではなく追悼映画の要素を強く持っています。
基本としては、マイケルが実現しようとしていたライブを、リハーサル映像や会場で使用予定だった映像素材等をつなぎ合わせることで再現する映画構成になっています。ただ、その中でいかにマイケルが音楽に情熱を持って接していたのか、どれだけファンを愛していたのかというのが分かる様に演出されています。また、このライブが行われるという発表がされた頃から報道されるようになったマイケルの健康状態への懸念を払拭するようなマイケルの踊りや歌声も見所になっていると思います。観た方は、見終わった時、マイケルの偉大さを感じ、はやり彼は「King of Pop」なのだと実感するのではないでしょうか。「This Is It」というタイトルには、制作側の「これがマイケルだ!」というメッセージをも感じさせます。

ところで、急な話ですが「記憶する」ということは「忘れる」ことでもあるというのをご存じでしょうか?
追悼の場というのは、亡くなった人物に思いをはせ、哀悼の意を示すという儀式の場だけではありません。その過程において参加者にある特定のイメージを記憶させてそれ以外を忘れさせる行為の場でもあります。お葬式や様々な追悼記念式典などで、亡くなった方、または追悼対象に悪いこと言う人はまずあり得ません。こうした儀式でそのような行為はタブーであり、逆に望まれているのは、いかに惜しい人を亡くしたのか、いかに善いものを失ったのかを想い、その想いを記憶することです。ですから、追悼というのは、それ以外の悪いイメージを忘却させる力を持っています。

そういう意味で言えば、「THIS IS IT」は、死去直後に大々的に公開されてマイケル・ジャクソンをどう記憶すべきかを規定した映画と言えます。これにより、鎮痛剤中毒となって無残な姿で死んだ(殺されたとも報道された)というイメージは払拭され、また過去の奇行や幼児への性的虐待の容疑に関してなどについても言及することがはばかれるような社会的な空気を生み出したように思います。ある意味で、この映画によってマイケル・ジャクソンの栄光は保たれ、皆は安心してマイケルを記憶し、それと同時に忘れることができたと言えます。

このように、この映画はマイケル・ジャクソン自身がそうであったように社会現象と共に語るべき映画ではないかと感じました。あなたにとってマイケルのイメージは、どうなるのでしょうね?


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『武士の家計簿』(2010)@ハワイ国際映画祭2010

【2010-10-28のログを転載】



2010年12月4日公開予定の堺雅人・仲間由紀恵主演映画「武士の家計簿」を一足先にハワイ国際映画祭(HIFF)で観ることができました。
映画祭は最終日でした。ロードショー前の作品を見られるのも映画祭の魅力ですね。

「武士の家計簿」は、堺雅人演じる加賀藩の御算用者(経理係)猪山直之の半生を幕末から明治初期までを追って描いた映画です。猪山直之は、自らのそろばんの才能を生かし、借金まみれの猪山家を建て直しつつ幕末に揺れる社会の中を家族と共に生き抜いて行きます。この映画の売りは何と言っても古書店で偶然発見された168年前の家計簿を元にしていて、この猪山直之とその家族が実在したと言うことです。映画の中で、武士の見栄や誇りをかなぐり捨て、家財道具を売り払い、節約生活で一家のピンチをくぐり抜けて行くのですが、それが本当にあったことであるというのはとても考え深いです。古書店でその家計簿が発見されるまで猪山直之は歴史に埋もれてしまった下級侍の一人です。いうなれば、武家世界の中では今で言うサラリーマンとあまり変わらない位置取りの普通の人です。そんな人が実は歴史の荒波にもまれながらも自らのあらん限りの能力を使い家族を支えていたというのは感動を覚えますし、お金持ちでもなく普通に生きる僕らにも勇気を与えてくれるように思います。

映画としてもその節約・倹約生活を涙涙の感動話にしたてあげず、コメディータッチで描いているので見ていて笑える、純粋に楽しめるものにもなっています。僕は、これをハワイで見ていたわけですが、僕が笑うところで他のローカルのお客さんも笑っているのを聴くと「あぁこういう笑いは万国共通なのかなぁ」と感慨深かったです。まぁでも日系のおじいちゃんおばあちゃんが多かったせいかもしれません。(笑)

ちょっと残念だったのは、せっかく仲間由紀恵が妻の役を演じているにもかかわらず、あまり目立って無かったことです。陰で支える妻役を演じさせられ過ぎてしまったのかも知れません。それに比べるとシーンが少ない中、存在感を示した松坂慶子はやはり凄い女優なのでしょう…。

総合的には、笑いだけでなく家族愛にホロッとくるところもあり、「昨今まれに見る名作!」とまでは行きませんが、映画館で見て損はない良い映画だと思います。
ハワイ国際映画祭でも、上演後に拍手が自然と起こり、皆さん満足して劇場を出て行った様子でしたよ。


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2013年3月12日火曜日

『トランスフォーマー/リベンジ』(2009):アメ車と米軍賛美の映画

【2009-06-29のログを転載】



気まぐれで友達と「Transformers: Revenge of the Fallen」(邦題:トランスフォーマー/リベンジ)を見てきました。

久々に映画館で観た映画がこれというのも何だかもったいない気もしますが、またにこういうどうしようもないエンターテインメント映画をつい観たくなるもんです。今日がたまたまそういう日だったようです。

この映画は、「トランスフォーマー」の続編(2作目)です。
前回と変わらず、スティーブン・スピルバーグ総指揮、マイケル・ベイ監督で、主演のシャイア・ラブーフとミーガン・フォックスらも同様です。(次の3作目で完結するらしいです。)1作目に世界観とキャラ設定を固定できたので、今作の話の流れはもっと単純になった印象です。前回よりもCGのクオリティーが上がったようで、ロボット同士の格闘シーンや人間の兵士を混ぜた戦闘シーンなどが増えて、ほんと単純に映像を楽しむ映画に成長(?)しています。

ストーリーは、まぁその手の映画によくある物なので省きますが、気になったのは米軍賛美的な映像作りと、主要自動車がGM車のみという点。今作品、前にも増して軍のサポートを得たのか陸海空全ての主要兵器が登場します。そこまで撮さずとも…というほど。しかも度派手なマイケル・ベイらしい撮り方で、それはそれは軍の宣伝かと思うほど。加えて、登場する兵士たちも、まぁ格好良いこと。(登場するリーダー的兵士2人は、白人と黒人のペアというのも人種の壁は軍にはないと言いたげ。)

そして、ロボットへと変形する正義側の自動車は、全てジェネラル・モーターズ。シボレーのカマロやコルベット、ハマー・H2やGMCの大型ピックアップトラック。それに加えてコンセプトカーとして発表したばかりのコンパクトカー2台も登場する。(カマロもコルベットも発売前のコンセプトカー。)「アメ車バンザイ!買ってよね。」と言いたげな、まさに映画を使ったプロモーション。経営破綻したニュースを聞いたのが、つい最近。そんな企業がどんな風にお金を使っていたかと言えばこれだったわけだ。

これを見るのは、主にティーンエイジャーの男の子、とそれを連れてくる保護者の親たち。そして、その映画は、米軍(兵士)の賛美と、破綻企業のアメ車の広告で満たされている。


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『バベル』(2006):現代の不和を描く映画

【2008-05-06のログを転載】


久しく映画を見ていませんでしたが、久しぶりに一本見ました。
ブラット・ピット、ケイト・ブランシェット、役所広司やこの映画で一躍有名になった菊池凛子などが出演した「BABEL」(邦題:バベル)です。結構話題になったのではないでしょうか…。

この作品のタイトル、「バベル」は、旧約聖書にあるバベルの塔に関する話に由来します。聖書によると、太古の昔、人々は一つの言語を話し統合していました。しかし、天にも届くようなバベルの塔を築いた人間に神は怒り、神は罰として人々の言葉をバラバラにし、意思の疎通が取れないようにし、バベルの塔を崩壊させたというのが、そのストーリーです。

映画「バベル」は、現代社会はまさにそのバベルそのものであるというのがテーマです。
主要登場人物は、夫婦仲が破断しかけ、修復のためモロッコツアー旅行に出たアメリカ人夫婦(1)、そのモロッコで羊の遊牧をして暮らす現地の家族(2)、アメリカ人夫婦が家に残した幼い息子と娘の面倒を見るメキシコ人の乳母(3)、そして、東京に暮らす、母親を自殺で失った日本人の聾唖女子高生とその父親(4)です。
映画は、この4つのグループを軸にそれぞれの視点で描かれます。話は、ツアーバスが何もない田舎道を移動中、アメリカ人妻がライフルで撃たれることで動き出し、4つの別々の視点で映像は捉えられ、映像が交錯しながら進んでいきます。

この映画の面白味(特徴)は、4つの視点が絡み合うことで、現代のさまざまな問題を一度に提起している点です。映画が映し出すのは、例えば、パックツアーによって現地の言葉も分からずにモロッコに来てしまったことで窮地に立たされるアメリカ人夫婦、お金を求めアメリカに不法滞在・就労するメキシコ人、そのメキシコ人に乳母を任せたことで親の知らないスペイン語を理解するアメリカ白人の子供たち、羊を守るため手に入れたライフルを安易に幼い息子に任せてしまったことで事件を起こすモロッコの遊牧民、酒やドラッグに溺れ、手軽なセックスを求める都会の高校生。原因は、グローバル化、貧困、教育のなさなど多様ですが、それでも現代が抱えている事柄であることには変わりないでしょう。
これらを一挙に提示するこの映画の手法は独特で、それに付いていければ見る側を考えさせる作品だと思います。映像が頻繁に変わるので、集中して見ていないと混乱してしまうかも知れない作品ですが、「社会派意欲作」という枠の中では、評価されて良いのではないでしょうか。

ただ、4つの軸を考えてみると、4つ目の日本の場面がひどく浮いているように感じられます。それは、そもそも直接的な接点を他の軸と持っていないからでもありますが、奇抜な設定の女子高生が主人公であるためでもあると感じます。これは、自分が五体満足であるから聾唖者の感覚が理解できないというのではなく、映画の中で、あまりにも異端な人物設定であるからだと思います。父親と不仲な女子高生、というのは、ありそうな設定ですね。まず、そこに加わるのが、今なお欧米人には、遠い国「JAPAN」の女子高生であること。ここまでは、いいと思います。が、それに続くのが都会の一等地の高級マンションに住み、しかも母親が目の前で自殺し、そして異常なほどの性への関心を持ち、そして、聾唖であるという、彼女だけ異様なほど細かい設定がされているのです。
ここから思うのは、彼女が、「孤独」や「隔たり」など現代の悲哀の『象徴』なのだということです。『象徴』は、抽象的でなければならず、そのために彼女は、親近感を覚える要素を出来る限り無くさなければならなかったのでしょう。その手始めが、東洋の女子高生であり、そして、究極的な要素が聾唖だったのでしょう。

この「東洋」や「身体的障害」のステレオタイプを利用した手段を評価しませんが、そういう視点で描かれていると思いながら観ると、映画全体のメッセージがいくらか鮮明に見えてくるのではないかと思います。難解であったり、問題があったりしても、日本国内の文化的状況が内向きになっている現在、こうしたグローバルな映画を観ることは、感性を高めたり、視野を広げたりする助けとなり、(観る意欲があり集中力が保てれば…)良い時間となるのではないでしょうか?

画像:ピーテル・ブリューゲル作「バベルの塔」Wikipedia:バベルの塔より

追記:
「グローバル」と安易に使用してしまっていますが、それを語るにしても視座があります。この映画は、やはりアメリカ人のための映画なのだという点を強調しておくべきかと思いました。提起される問題も、アメリカ人に向けられたものであるので、日本人には理解しづらかったり、物語の意図が読みづらかったりするかもしれません。
要は、大々的な宣伝がされましたが、非常にマニアックな映画ということです。観る前に注意が必要ですね。


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『シリアナ』(2005)と『トランスフォーマー』(2007)

【2008-02-14のログを転載】




■ 最近見た映画で一番考えさせられたのが、「Syriana」(邦題:シリアナ)という映画です。麻薬密売とその捜査の流れを両極から描いた映画「トラフィック」の制作スタッフが新たに取り組んだ石油利権をテーマとした政治サスペンス映画です。
出演俳優には、ジョージ・クルーニーやマット・デイモンなど、有名どころもいますが、多くが日本人には馴染みのない俳優人で構成されています。ちなみにジョージ・クルーニーは、制作総指揮にも名を連ねています。

この映画が難しいのは、主題にまず中東の石油利権が絡んでいること、そしてそれを描く「軸」が、5つもあることです。その軸とは、(1)CIA諜報員、(2)巨大石油会社の弁護士、(3)石油関係に特化した経済アナリスト、(4)石油産出国の王子、(5)その国にパキスタンから来た出稼ぎ労働者、の5つです。これらを軸としたストーリーが、同時進行的に描かれ、絡み合いながら映画は、テンポ良く進んでいきます。情報量の多さとスピーディーな展開に、脳みその処理速度がなかなかついていきません。なので、多くの視聴者が、置いてけぼりを食うかも知れません。見る時には、集中力を高めて、知力を働かせる準備が必要かと思います。

しかし、交差するストーリーを咀嚼しながら、最後まで見ていくと、アメリカという国家の怖さ・アメリカ経済(≒世界経済)を牛耳る巨大企業の怖さをヒシヒシと感じてくることでしょう。そこには、最近、政治的活動や平和活動を積極的に行うジョージ・クルーニーの意図を感じることが出来ます。
個人的には、難しくても諦めずに最後まで映画の流れに乗っかっていければ無駄ではない鑑賞時間になるのではないかと思います。


■ そんな映画の後に見たのは「Transformers」(邦題:トランスフォーマー)です。こちらは、アニメが原作の単純明快・勧善懲悪のロボット映画です。それでも、製作総指揮をスティーブン・スピルバーグが、監督を「アルマゲドン」で有名なマイケル・ベイが担当しているので、映像はしっかりしています。ただ、この映画は、スピルバーグが「孫が見ても楽しいものを」というテーマで製作を決めたようで、その辺が「子供向け」的でベタなストーリー展開と現実味のないキャラクター設定を産んでしまったのかなぁと思ってしまいます。

この映画の主人公は、ロボットかと思えば、実は10代後半の冴えない男の子です。そんな冴えない男の子の「大人への成長と恋のお話」と「地球の存亡を賭けた正義と悪のロボット生命体の戦い」とが、強引にまとめられて映画となっているので、どうしても現実的に映ってこないのです。しかも、男の子の話や米軍の話がくどいほど続いてなかなかロボットの姿がはっきり見られないんですよね。

なので、この映画を見て、大人が楽しめる要素は、要所要所で挟まれるCGで再現されたロボットの変身シーンしかないのではないかと思ってしまいます。よく作り込まれたCGと音響は、「アニメや玩具のロボットが現実に現れたらどうなるんだろう」という子供の頃の想像を現実味のある形で映画の中に再現してくれています。CG担当者のフェティシズムが感じられ、同じようにロボット物が好きな人は、それだけ見るためにレンタル(または購入)するのも良いかも知れません。(=多くの女性は、見ても何にも面白くないでしょう。)
次回作も製作が決定しているようです。次回は、ダラダラとしたヒューマンドラマを押さえて、ロボットを全面に出してくれたらもう少し面白く見られる映画になるかも知れません。

余談ですが、この映画の主人公、「10代後半の男の子」というのは、アメリカの映画館収入のコアターゲットでもあります。なので、「トランスフォーマー」の主人公は、アニメが原作だから子供を主人公にしたというより、大きな映画収入を見込んでの計算された設定なのだと考えられます。コアターゲットが感情移入しやすい設定という訳です。だからこそ、例えば10代の男の子が夢想するちょっと大人っぽくてセクシーな同級生の女の子との恋なんていうのも盛り込まれています。青少年向け映画にありがちな教育的・啓蒙的なストーリーの中にも、そうしたニーズを受けた商業的画策が入り込んでいるというわけですねぇ。


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